アラスジャパンの久次です。

今回は、ものづくりにおける“サイバーセキュリティ”のブログシリーズ第7回として、 着眼大局というタイトルでシステムズシンキングについて考えてみたいと思います。


製品設計の流れは、ハイレベルな要求事項の定義から始まり、機能として具体化し、ロジックに分解され、具体的な図面に落とし込むといった形で製品情報を具現化していきます。具現化された設計情報は部品として作られ、最終的には製品として組立られていきます。製品開発の流れは、構想を詳細化する流れと、それを具現化する流れが相対するポジションにあるため、開発プロセスの全体像をアルファベットのV(ヴイ)にたとえV字開発プロセスと呼ばれています。試作回数を減らしつつ製品品質を向上するには、詳細化された設計情報が試作品として実体化する前に、機能ロジックや図面化されたデジタルデータを元にシミュレーションを行い、設計段階での品質の作りこみを実現していきます。


                   図:モノづくりのV字

システムズシンキング

メカ・エレ・ソフトが密に連動するIoT製品も、着眼大局でシステムのアーキテクチャをとらえ機能を具現化していく必要があり、俯瞰した視点でアーキテクチャ設計を進める方法をシステムズシンキングと呼んでいます。

機能化(F)、ロジック化(L)、物理化(P)と設計作業が進むとテーマが細分化され還元主義的(Reductionism)になり、データがサイロ化されて行きます。サイバ―セキュリティマネジメントシステム(CSMS)を考える場合、データがサイロ化されることを未然に防ぎ、設計のライフサイクルに亘って情報が共有できるような仕組みが求められます。
システムズシンキングを用いたモノづくりのプロセスでは、設計要件をそれぞれ、機能化(F)レイヤー、ロジック化(L)レイヤー、物理化(P)レイヤーにおける各ステージの作業と紐づけ、設計要件(R)をインプットとし、テスト(T)やシミュレーション結果(V&V)をアウトプットとして関連づけることで、設計要求とその実現案に対するトレーサビリティを実現していきます。

図:システムズ視点で見るモノづくりのV字

より良い答えを見つけるため設計作業はスパイラルに繰返し行われるため、成果物も随時改定されます。何世代にも分かれる成果物を正しく管理するにはデジタルスレッドが大いに役に立ちます。
成果物のトレーサビリティは、最新のバージョンを追えば良いというわけではありません。メタデータをつなげるデジタルスレッドを使えば、正しいバージョンのデータを簡単に見つけることが出来ます。デジタルスレッドはインターネットの世界のハイパーリンクと同様の働きをし、必要な情報に辿り着くための道先案内の役割を果たします。

活きた情報”プロパティ”

モノづくりにおけるV字モデルのトレーサビリティでは、プロパティも重要な役割を持ちます。たとえば、製品の要求事項として、スペック、稼働環境やコスト及び重量などが設計目標として定義されます。稼働環境としてセンサーの動作保証を-25℃から+75℃までと設定した場合、-25や+75と表現されている値(プロパティ)の"25"や"プラス"及び"マイナス"は単なる文字列以上の意味を持ちます。稼働環境の検討を重ねていく中で、仕様説明の大半は同じ文言で固定化されていきますが、温度などの数値は最適な値を見つけるため設計を進めるたびに上下し、-10℃になったり-30℃になったり常に変わっていきます。この変更点の差異を正しく設計の後工程に伝える必要があり、これらの数値(プロパティ)はシミュレーションやテストなどにも活用されていくため、活きた情報として関連するチームに伝える必要があります。
デジタルスレッドをCSMSに組み込む場合、データのつながりだけでなく、プロパティを活かすデジタルスレッドのアーキテクチャ設計を心掛けると良いでしょう。

システムズシンキングやデジタルスレッド及びデジタルスレッドにおけるプロパティの役割をわかりやすく紹介しているビデオがあるので参考にしてください。
The Digital Thread in Action – Systems Thinking for Digital Transformation

システムズシンキング vs 還元主義

還元主義的になりがちな設計情報の管理基盤に、デジタルスレッドの仕組みが組み込まれていることにより、着眼大局的に情報が管理されシステムズシンキングの枠組みを維持することが可能となります。
設計情報がF、L、Pに細分化されていく仕事の流れでは、前工程の成果物が次工程のインプットとして繋がっています。もちろん前工程の成果物は常に改定がかかるため、改定された前工程のアウトプットは正しく次工程のインプット情報と関連づけられる必要があります。設計情報のデジタルスレッドは、要求(R)とテスト結果(T/V&V)をつなげるだけでなく、機能化(F)、ロジック化(L)、物理化(P)に細分化されていく垂直方向の各階層間もつながっていきます。設計データをデモクラタイズし、製品ライフサイクルの様々な工程で自由に活用できる様にするために、CSMS/SUMSには、システムズシンキングを取り入れた情報管理プラットフォームのアーキテクチャ設計が求められます。

次回の記事もぜひお読みください。

「ものづくりにおける“サイバーセキュリティ”」ブログシリーズ 目次
 第0回:ものづくりにおける「サイバーセキュリティ」とは? ~イントロダクション~
 第1回:IoT製品開発におけるサイバーセキュリティへの取り組み
 第2回:自動車におけるサイバーセキュリティ 
 第3回:サイバーセキュリティのマネジメント 
 第4回:サイバーセキュリティのマネジメント(その2)
 第5回:サイバーセキュリティにおけるデジタルツイン
 第6回:なんとか In the Loop
 第7回:着眼大局
 第8回:Single Source of Truth
 第9回:150% BOM
 最終回:ものづくりにおける「サイバーセキュリティ」とは? 〜おさらい〜