「AIを導入すれば、ものづくりは本当に変わるのか」。
Aras Connect Tokyo 2026の会場で繰り返し見えてきたのは、その問いに対する現実的な答えでした。
AI時代のものづくりをつなぐ、PLMの現在地
梅雨入りが発表され、天気が心配されましたが、この日の東京は快晴。今年のAras Connect Tokyo 2026のテーマは、「Adaptive Intelligence|進化するインテリジェンスがイノベーションを加速する」です。

PLMは、もはやデータを管理する基盤としての役割にとどまらず、AIとどう組み合わせて現場改革を進めていくかという、重要な位置づけを担うようになっています。そうした変化から、会場には朝から多くの来場者が集まり、今年のAras Connect Tokyo 2026への高い関心を感じさせる一日となりました。

会場では、AI、PLM、デジタルスレッド、MBOM、MBD、ASPICE対応など、ものづくりの進化に直結するキーワードが並びました。
関心の高まりは、もはや一過性ではない
Arasの日本イベントは、これまでも大規模な申し込みを集め、東京・大阪の2会場開催へと広がってきました。過去の記録では、日本開催で1,000人を超える申し込みが集まる年もあり、集客を分散するために東京・大阪の2拠点で開催するようになった経緯があります。また、昨年の大阪開催レポートでは、11年ぶりとなる大阪開催に400人超が集まり、若手エンジニアの存在感も際立っていたと伝えられています。
単純な年次比較はできないものの、PLMへの関心が確実に広がっていることは間違いありません。

ここで注目すべきなのは、参加者数そのものよりも、関心の質が変わってきていることです。以前のように「PLMは必要か」が論点なのではなく、いま問われているのは「新しいインテリジェンスとの融合」「デジタルスレッドの重要性の再認識」「製品開発や製造プロセスの改善にどう結びつけるか」という、より実務的で具体的なテーマです。
Aras Connect Tokyo 2026は、そうした課題意識に正面から向き合う機会となりました。
「2025年の崖」のその先で、いま何が問われているのか
今回のイベントを読み解くうえで重要なのが、基調講演で語られていたDXの文脈です。

講演では、2018年に経済産業省が提起した「2025年の崖」に触れながら、レガシーシステムの刷新やデータのデジタル化だけでは十分ではないことが強調されました。その先にある「真のDX」とは、単なる業務効率化やシステム更新ではなく、ビジネスや判断のあり方そのものを見直すことだと示されました。
この視点は、今回のAras Connect Tokyo 2026のテーマとも重なります。
アジェンダには、AIとPLMによる自動車製造の変革、Adaptive PLMへのロードマップ、デジタルスレッド拡張、MBOM/BOP一貫生成、AI活用基盤、E2Eテストソリューションなど、単なる機能紹介にとどまらないセッションが並びました。
そこに共通していたのは、つながったデータをどう使い、経営や現場の判断にどう生かすかという視点です。
AIが変えるのは、作業の速さではなく「見えていなかったリスク」の発見
基調講演の中でとくに印象的だったのは、「見えないものこそがリスクである」という問題意識です。

製造業の現場には、設計、BOM、品質、調達、製造、保守といった多くの情報が存在します。しかし、情報があることと、リスクが見えていることはまったく別です。
人が気づいていない依存関係、暗黙知のまま埋もれている判断、あとから効いてくる設計変更の影響。そうした「見えていないリスク」をAIで可視化していくことが、これからのDXの核心だと語られていました。
この考え方は、デジタルスレッドの意味も広げます。
デジタルスレッドは、単にデータ同士をつなぐ仕組みではありません。講演では、その先にある「Dependencyグラフ」の発想、つまり設計変更がコスト、納期、品質、サプライチェーンにどう波及するかまで含めて読み解く視点が示されていました。
これは、PLMの役割が情報の「保管」から、判断を支える仕組みへと移りつつあることを意味しています。
Aras Connectの価値は、製品説明ではなくCommunityが集まること
Aras Connectの価値は、毎年そこにあります。

昨年の大阪開催レポートでは、イベントの魅力は講演だけではなく、世代や業界を超えてPLMについて語り合えるコミュニティにあると書きました。20代、30代の若手エンジニアが目立ち、成功談だけでなく、現場の苦労や失敗、試行錯誤まで共有できることが、このイベントの強みだと伝えました。
今回の東京開催でも、その価値は変わっていません。
参加者が求めているのは、抽象的な理想論ではなく、現場に落とせる「現実解」です。AIをどう使うのか。デジタルスレッドをどこからつなぐのか。MBOM/BOPやMBDをどう実務に生かすのか。現場主導の改善サイクルをどう回すのか。
アジェンダに並んだセッションは、そうした実務上の課題に対する具体的なヒントを持ち寄る構成になっていました。
いま、ものづくりの現場が見に来ているのは「次の機能」ではない
今回のAras Connect Tokyo 2026で見えてきたのは、参加者が求めているものが、単なる製品アップデートや新機能ではないということです。

本当の関心は、AI時代のものづくりにおいて、自社のデータと業務をどうつなぎ、改善をどう前に進めるかにあります。導入の是非を議論する段階はすでに終わり、いま問われているのは、その仕組みをどう現場に根づかせるかです。

今年のAras Connectは、もはや年次イベントというものではありません。AI、PLM、デジタルスレッドといった言葉を並べるだけではなく、それらをどう現場に根づかせ、業務の変化につなげていくのかを考える一日でした。会場に集まった多くの人たちの熱気は、製造業がいま確実に次のフェーズへ進もうとしていることを示していたように思います。
PLMは、もはや「導入するシステム」ではありません。変化の速い時代に、現場と経営、設計と製造、データと判断をつなぎ直すためのインフラです。
これからのものづくりに必要なのは、情報を持つことではなく、つながった情報を使って、よりよい判断を下せる状態をつくることです。
Aras Connect Tokyo 2026は、そのことをあらためて実感させる一日でした。