ソーシャルメディアの普及やモバイル決済、GPSを使ったサービスの多様化やオンラインショッピングなど、今日では爆発的にデータが発生しています。米国の調査会社であるIDCによると2025年には生成、取得、消費される世界の年間データ生産総量は175ZB(ゼタバイト)に達すると予測されています。ZB(ゼタバイト)とは日頃よく使われるGB(ギガバイト)からさらにゼロを12個付加した単位のデータ量です。とてつもなく大きな単位であることが容易に想像できると思います。
これらのデータを有効活用し、より良い生活やビジネスの問題解決や意思決定のためにデータを収集して分析し役立てようとする、データドリブン(データ駆動型)の取り組みが始まっています。データドリブンとは日々の生活やビジネスの場面で必用なアクションや判断を従来の「カン」、「コツ」、「ケイケン」に頼るのではなく、データに基づき行い、客観的に行動できる様にデータを活用していこうという考え方です。
ショッピングサイトのおすすめアイテムから購入に至る流れや自分好みの情報を見つけるためにソーシャルメディアを使い情報収集すること、また、位置情報を使った経路探索など、これらはすべて日常的に私たちがデータを使ってデータドリブンで意思決定している身近な例です。
では175ZBもの巨大なデータは誰が持っているのでしょうか?Google?Amazon?Microsoft?日本経済新聞の記事によると、GAFAMと言われるIT大手が管理しているデータは世の中にあるデータの1割程度だと言われています。データドリブンでデータに付加価値を持たせて活用している事例を幾つか見てみましょう。
- データの分析
ビッグデータを分析する場合、単に集計して分析値を結果として導き出すだけでなく、計算され集計されたデータからさらに詳細なデータにドリルダウンすることでより詳しく情報の本質にたどり着くことが可能になります。
- インターネットによる検索
インターネットの検索エンジンは世界中のWebサイトが持つハイパーリンクの量や重みづけを使ってほしい情報を検索している事はよく知られている事実です。
- ホテルの予約
旅行をする場合、ホテルを予約するだけでなく、目的地までの移動手段やディナーの場所、観光地の情報などの情報も合わせて見られると便利です。今日では予約したホテルの位置情報を元にこれらの知りたい情報が簡単に入手できます。
- ソフトウェアアップデート
電話や時計、自動車など最近では様々なモノの機能をソフトウェアが制御しています。ソフトウェアは改良しやすく、また持ち運びも簡単なため、製品の機能を向上させる為にソフトウェアをアップデートすることでサービスの向上を実現しています。この場合、ハードウェアに不適切なソフトウェアをインストールすることは不具合の原因でしかありません。ソフトウェアアップデートをする際は、ハードウェアに合った正しいソフトウェアをインストールする必要があります。
1割程度でこれだけ利用できているのであれば、残りの9割のデータは何処にあるのでしょうか?実は、BtoBと言われる企業間や企業内に存在していると言われています。GAFAMをはじめとするIT大手から提供されるデータドリブンなサービスを使う事で日々の生活は便利になっている一方で残りの90%のデータを保持する企業のデータ活用状況はどうでしょうか?皆さんの仕事はソーシャルな世界と同様に仕事の進めかたもデータドリブンになってきているでしょうか?
企業の中にはたくさんのデータが存在するにも関わらず、実際に活用されているデータは25%程度しかないと言われています。残りの75%のデータは使われず、作成されても活用されずに蓄積され続けるという状況にあります。データの利活用が進まない理由はたくさんありますが、一番の大きな理由は、活用できるように情報が整理、管理されていないということです。その課題を解決するにはデータを同じ目的別に関連付けて活用しやすい形で管理することが必要です。データの鮮度を保ちつつ目的別に分類されたデータをデータドリブンな情報として利用できる様にする仕組みをデジタルスレッドと呼んでいます。デジタルスレッドとは関連するデータを定義された目的に基づきデジタルのスレッド(糸)でつないで、常に最新のデータ間の関係を管理する仕組みです。
例えば、製品を設計する際、部品には品番が付与されます。品番P100には材質や仕入先及び重量やコストなどの情報だけでなく、品番P100に関係するデザインデータもあります。製品設計が進むことで部品やデザインの詳細が決まっていきます。
デジタルスレッドを使えば、品番に関連する情報に加えてデザインデータである図面も柔軟に管理することができます。設計が進み品番や図面に設計変更がかかり情報が改定されても、品番のバージョンと図面のバージョンの組み合わせを正しく管理する事ができ、いつでも簡単に現在や過去の情報にアクセスすることができます。デジタルスレッドは、常に履歴としてデータ間の組み合わせを維持管理しているため、最新バージョンだけでなく、過去のデータの組み合わせも簡単に見つけることができます。
また、デジタルスレッドでデータとデータをつなげることで情報のサイロ化を防ぐことができます。例えば、部品情報の作成者と図面の作成者が異なる部門で作業していた場合、情報としては関連するデータが欲しいにもかかわらず個別に分散して単独で情報が存在すると、必用な情報を見つけるためには各担当者に問い合わせる必要があります。デジタルスレッドで部品と図面がつながっていると、デジタルスレッドをたどることで、正しい情報に簡単にアクセスできます。また、構築されたスレッドを逆展開し影響度を把握するトレーサビリティも同時に実現できます。これにより個人別や部門別に管理されているサイロ化されたデータがつながり、データドリブンな情報として活用できるデータに生まれ変わらせることが可能になります。その為、デジタルスレッドを構築する情報基盤は部門の中で閉じたシステムではなく、部門を跨ぐシステムとして構築する必要があります。
デジタルスレッドの関係性の定義は、データドリブンなデータとして活用したいシナリオにより異なります。製品開発の場面を例にすると、製品を企画する部門では製品の要求仕様、製品を設計する部門では品番や図面及び仕様に関するドキュメントなどが作成されます。製造現場では工程表や作業手順書、製品の保守部門ではサービスマニュアルなどそれぞれの部門の仕事に合わせて様々なデジタルデータが作成されます。これらのデータは特定の製品に紐づけられ、部門を超えてデジタルスレッドを使って管理されることで設計の上流で起こった変更をいち早く関連部門に伝えることを可能にし、製品開発のトータルパフォーマンスを向上させることができます。
この様に部門を超えてデジタルスレッドがつながることで、製品の不具合が発生した場合もスレッドの逆展開を行う事で、当該製品がどの工場で生産されたものなのか?使われた図面のバージョンは?そもそもの要求仕様の範囲で使われているのか?などを簡単に把握し対応策を検討することができます。
企業の中にはまだまだ沢山のデータが眠っています。これらのデータを再活性化しデータドリブンな仕事のスタイルに変革するには、デジタルスレッドを構築するためのデータの共通プラットフォームの整備から始めるのが良いでしょう。